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好きな小説
おすすめ度 4.0
茂みの中で息を殺し、もうどれほど待ち続けているだろう。
長くしゃがんでいたため、膝から下の感覚が麻痺し始めている。ジャンパーは雨に晒(さら)され、冷たい水分は既にセーターやシャツを通り越し肌にも達していたが、興奮しているせいだろう寒さは一切感じなかった。

キッチンコロシアム 田中経一

「キッチンコロシアム 田中経一」おすすめ小説を読もう
- 2019/09/04
- 21:02
好きな小説
キッチンコロシアム 田中経一
おすすめ度 4.0
これはフィクションですが、昔人気のテレビ番組「料理の鉄人」をモデルにして、そこから広がるストーリーです。登場人物も当時の鉄人や筆者自身がモデルになっています。
「料理の鉄人」を知っている世代は特に面白い作品です。
料理の異種格闘技番組「竃(かまど)の鉄人」は富士テレビの人気バラエティ番組だ。
番組の主役は、もちろん和の鉄人、道場六三朗。
その道場に闘いを挑むのは、フランスの名門レストランで腕を磨いた注目の若き女性シェフ、河田千春。
実は15年前に道場と河田にはある因縁があった。この因縁が物語を面白くしている。
千春が番組オファーを受けた理由には、自分の店の宣伝以外にある思い(秘密)があった。
その思い(秘密)が道場との因縁に関係してます。
それがどのように展開するのか、それ以外にも盛り上がる箇所がたくさんあります。
ひとつのテレビ番組を作り上げるテレビ関係者の努力と苦労。
料理にこだわる料理人の志、料理に対する考え方の違い、等々。
そして家族への思い、絆まで。
番組を製作していくうちに徐々に明かされていく過去。
何度も心打たれる場面があるはずです。
そして最後にわかる衝撃の真実。感動すること間違いない作品です。
「料理の鉄人」を知っている世代は特に面白い作品です。
料理の異種格闘技番組「竃(かまど)の鉄人」は富士テレビの人気バラエティ番組だ。
番組の主役は、もちろん和の鉄人、道場六三朗。
その道場に闘いを挑むのは、フランスの名門レストランで腕を磨いた注目の若き女性シェフ、河田千春。
実は15年前に道場と河田にはある因縁があった。この因縁が物語を面白くしている。
千春が番組オファーを受けた理由には、自分の店の宣伝以外にある思い(秘密)があった。
その思い(秘密)が道場との因縁に関係してます。
それがどのように展開するのか、それ以外にも盛り上がる箇所がたくさんあります。
ひとつのテレビ番組を作り上げるテレビ関係者の努力と苦労。
料理にこだわる料理人の志、料理に対する考え方の違い、等々。
そして家族への思い、絆まで。
番組を製作していくうちに徐々に明かされていく過去。
何度も心打たれる場面があるはずです。
そして最後にわかる衝撃の真実。感動すること間違いない作品です。
書き出し
茂みの中で息を殺し、もうどれほど待ち続けているだろう。
長くしゃがんでいたため、膝から下の感覚が麻痺し始めている。ジャンパーは雨に晒(さら)され、冷たい水分は既にセーターやシャツを通り越し肌にも達していたが、興奮しているせいだろう寒さは一切感じなかった。
心臓がどくりと一度大きく跳ね、そこから鼓動のリズムが加速し始めた。
「鉄人さん、好調だな」
そのひと言に、田中は奥歯を強く噛みしめた。
そのひと言に、田中は奥歯を強く噛みしめた。
歩みを止めて周囲の景色を三百六十度ぐるりと眺めたあと一つ深呼吸をする。目に入るパノラマの中で多摩川は緩やかに流れ、その上には雲一つない秋の空がどこまでも広がっていた。
目的地はこの辺りのはずだ。もう一度肺の深いところまで空気を吸い込み気持ちを落ち着け、橋の付け根に見つけたコンクリートの階段をそろそろと降りていった。
この辺りでは女性に呼び掛けられることもないのだろう、きょろきょろと辺りを見回したあと、ようやく階段の下に視線を落ち着けた。
「あ……あねき?」
「あ……あねき?」
初めは戸惑った目をしていたが、頭の中で事態を整理したのだろう、弟の表情はみるみる暗くなっていった。千春が距離を詰めると、その顔をより強張らせ、心は既に後ずさりを始めているように思える。
「ここはもう長いの?」
その問いを無視すると、房之助は視線を川の方に向け、丸めた背中でもう帰ってくれと訴えた。
弟は私に荒んだ今の自分を見せたくないのだ。弟の心情を察した時、千春の目に涙が溢れ出した。
その問いを無視すると、房之助は視線を川の方に向け、丸めた背中でもう帰ってくれと訴えた。
弟は私に荒んだ今の自分を見せたくないのだ。弟の心情を察した時、千春の目に涙が溢れ出した。
そのカップケーキのことは思い出せなかったが、房之助が発した思いやりだけは受け止めることが出来た。
「房……働くつもりはないの?」
もう最後だからと、千春は聞きづらいことを尋ねてみた。すると、弟はこの日一番きつい表情を作り、千春に当てつけるようにわざとらしいため息を一つついた。
もう最後だからと、千春は聞きづらいことを尋ねてみた。すると、弟はこの日一番きつい表情を作り、千春に当てつけるようにわざとらしいため息を一つついた。
会議室の壁は煙草の煙がすっかり染み込み、置かれたホワイトボードにはキャスティング会議をした時の名残だろう、タレントの名前が消されずに残され、「整理整頓」と書かれたポスターの前には飲みかけの紙コップが山と積まれていた。
後ろめたい姿を白日の下に晒した気分がした。浜辺で作った砂の城は元々崩れることなどわかっている。それでも手を尽くして砂を積み上げているところに、姉という波がざぶんと打ち寄せた、そんな感覚だった。
十一月の冷たい雨がパラパラと降り始めていた。房之助の首筋に雨粒がぽつりと落ちる。そのひと雫が房之助にあの日のことを思い出させた。そう、あの時も十一月だった……
一度大きな雷鳴が轟き、それは遠くの鉄塔に落雷したように見えた。
雷の残像があの日の記憶を鮮明にさせていく。そう、金沢に戻ったことが全ての始まりだった。
甘っちょろい考えを持つ、ひよっこの料理人に現実とはどんなものなのかを突き付けるために金沢の街は自分を待ち受けていた。
雷の残像があの日の記憶を鮮明にさせていく。そう、金沢に戻ったことが全ての始まりだった。
甘っちょろい考えを持つ、ひよっこの料理人に現実とはどんなものなのかを突き付けるために金沢の街は自分を待ち受けていた。
車から降りると雨がぱらつき始める。鎌倉山全体が既に紅葉で色づいていて、雨に濡れるとその鮮やかさがより強調された。
しかし、その答えは黒岩の期待するものではなかったようだ。黒岩は不快な表情を浮かべると、ぞんざいに葉巻をもみ消した。
田中はその様子を脱け殻のように眺める。俺は鎌倉まで何のためにやってきたんだろう……
雷が東の空で小さく鳴った。雨脚も次第に弱まり、周囲は静けさを取り戻しつつある。
「房くんがここにいる本当の理由は、たぶん……」
博士は、その言葉の続きを飲み込んだ。
博士は、その言葉の続きを飲み込んだ。
二十三歳になったいま、この器の上に載せるに相応しい料理とはどんなものなんだろう。それを作るために、僕はここから旅立たなくちゃいけない。
心の中にその誓いが木霊した。
心の中にその誓いが木霊した。
田中は全身の筋肉が強張るような緊張感を味わっていた。
一組の客が待ち構えている。不安から、房之助の心臓はコックコートの内側で暴れまくっている。
麻生の中に溜まっていたものが、田中の耳元に雪崩を打ったように押し寄せてくる。
右側には広い草っ原が広がり、その向こうに月明かりに揺らめく多摩川の川面が見えた。
改めて写真を見返すと、今度は心臓が鼓動を速め、内臓の下の方が熱くなった。そして、腹の底から涙が溢れ出した。
麻生は自分の手をじっと見つめて、その時の感触を思い出しているようだった。
ここまで話すと、道場は大きく息を吐いた。まるで過去の苦々しい思い出を身体の外に逃がすように。
黒岩は苛立ちを指先に現しながら葉巻の火をもみ消すと、最後にこんなことを言った。
すると、男は視線をテレビから外しポケットの中をまさぐり始める。小銭が見つかるとそれをカウンターの上に雑に置いた。キャップを目深に被り、横に置いてあったショルダーバッグを肩にかけ身体を椅子から浮かせる。その時、テーブルのグラスにバッグが触れ、それは床に落ち大きな音と共に粉々に砕け散った。
足取りは機械的なもので、同じリズムを保ったまま歩き続けている。

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