○○のおかげで人生が一段と楽しくなった ≫ 森沢明夫さんおすすめ小説 ≫ 「キッチン風見鶏 森沢明夫」おすすめ小説を読もう
好きな小説
おすすめ度 ★★★★

キッチン風見鶏(森沢明夫) 
広々とした港の公園に、初夏の風が吹いた。
木陰のベンチに腰掛けているぼくの頭上からは、さらら、さらら、と若葉の葉擦(はず)れの音が降ってくる。
ふと、足元を見た。
お気に入りの赤いナイキのスニーカーの周りで、はちみつ色をした木漏れ日が戯(たわむ)れるように揺れていた。

キッチン風見鶏(森沢明夫) 
「キッチン風見鶏 森沢明夫」おすすめ小説を読もう
- 2019/08/09
- 19:09
好きな小説
キッチン風見鶏(森沢明夫)
おすすめ度 ★★★★
森沢明夫の作品は日常生活(仕事、恋愛、人間関係)を登場人物の綺麗で優しい心によって感動出来るものに変えてくれます。辛いこと悲しいことを乗り切るための勇気、元気をくれる作品です。日常のことが多いので読者の生き方に良い影響を与えてくれることは間違いです。
キッチン風見鶏も関わる人たちが一生懸命に仕事や恋愛に生きている姿を美しい表現を加えながら表現されているので、爽やかで癒され勇気がもらえます。
キッチン風見鶏も関わる人たちが一生懸命に仕事や恋愛に生きている姿を美しい表現を加えながら表現されているので、爽やかで癒され勇気がもらえます。

キッチン風見鶏という小さなレストランでアルバイトする坂田翔平は漫画家を目指す二十四歳の若者。翔平にはキッチン風見鶏にいる幽霊が見える。
鳥居絵里はキッチン風見鶏のオーナーシェフ、三十二歳。
絵里の特技はプロファイリングで人の行動やその周辺をつぶさに観察し、分析し、推理し、言い当てる。その能力を、お店に来てくれるお客さんの心身の状態を知るために頻用している。そして、お客さんひとりひとりの現状にぴったりと合った料理を提供している。
手島洋一はキッチン風見鶏のお客さんだ。絵里の母親の鳥居祐子が道で倒れているのを助けた。そのお礼にキッチン風見鶏に招待されたことでキッチン風見鶏のお客さんとなる。手島は絵里に好意を持っている。息子がいるが、実の子ではなく、交通事故で亡くなった妹の息子を親代わりになって育てている。
宮久保寿々、二十四歳、「港の占い館」で働く占い師だ。彼女は守護霊と話しが出来るので、占いは当たる。趣味は食べ歩きで、ある時、キッチン風見鶏をネットで見つけ予約の電話を入れる。電話に出た男性の声を聞いてドギマギしてしまう。そして、妙な胸騒ぎを感じる。
これらのキッチン風見鶏に関わる登場人物中心に物語が進んでいきます。愛あり、癒しあり、感動ありの森沢明夫さんらしい作品です。
鳥居絵里はキッチン風見鶏のオーナーシェフ、三十二歳。
絵里の特技はプロファイリングで人の行動やその周辺をつぶさに観察し、分析し、推理し、言い当てる。その能力を、お店に来てくれるお客さんの心身の状態を知るために頻用している。そして、お客さんひとりひとりの現状にぴったりと合った料理を提供している。
手島洋一はキッチン風見鶏のお客さんだ。絵里の母親の鳥居祐子が道で倒れているのを助けた。そのお礼にキッチン風見鶏に招待されたことでキッチン風見鶏のお客さんとなる。手島は絵里に好意を持っている。息子がいるが、実の子ではなく、交通事故で亡くなった妹の息子を親代わりになって育てている。
宮久保寿々、二十四歳、「港の占い館」で働く占い師だ。彼女は守護霊と話しが出来るので、占いは当たる。趣味は食べ歩きで、ある時、キッチン風見鶏をネットで見つけ予約の電話を入れる。電話に出た男性の声を聞いてドギマギしてしまう。そして、妙な胸騒ぎを感じる。
これらのキッチン風見鶏に関わる登場人物中心に物語が進んでいきます。愛あり、癒しあり、感動ありの森沢明夫さんらしい作品です。
書き出し
広々とした港の公園に、初夏の風が吹いた。
木陰のベンチに腰掛けているぼくの頭上からは、さらら、さらら、と若葉の葉擦(はず)れの音が降ってくる。
ふと、足元を見た。
お気に入りの赤いナイキのスニーカーの周りで、はちみつ色をした木漏れ日が戯(たわむ)れるように揺れていた。
深夜に降りはじめた雨が、朝には土砂降りになっていた。
ここまで雨足が強いとビニール傘などほとんど無力で、お気に入りのスニーカーはずぶ濡れだ。
ここまで雨足が強いとビニール傘などほとんど無力で、お気に入りのスニーカーはずぶ濡れだ。
こく、こく、と美味しそうに動く絵里さんの白い喉。
私も、ごくり、と喉を潤した。
私も、ごくり、と喉を潤した。
店を出ると、しっとりとした夜風がまとわりついていた。
夜空には、いくつかの小さな星がまたたいている。
夜空には、いくつかの小さな星がまたたいている。
頷いた絵里さんは、一度、確かめるように呼吸をした。
そして、自分の言葉をゆっくり噛みしめるように話しはじめたのだった。
そして、自分の言葉をゆっくり噛みしめるように話しはじめたのだった。
路地の暗闇のなか、ゆったりとしたリズムでふたつの足音が生まれては霧散していく。
高さの違う肩と肩。
その間に横たわる微妙な距離。
私はいつか、この距離を埋めることができるのだろうかーー。
高さの違う肩と肩。
その間に横たわる微妙な距離。
私はいつか、この距離を埋めることができるのだろうかーー。
絵里さんの顔から、笑みがはらりと剥がれ落ちていた。
広々とした港の公園に、やわらかな海風が吹いた。
頭上からは、さらら、さらら、と若葉の葉擦れの音が降ってくる。
頭上からは、さらら、さらら、と若葉の葉擦れの音が降ってくる。
女子高生の白くて細い喉が動いた。ごくり、と唾を飲み込んだのだ。
公園内の水銀灯も、やわらかなたんぽぽの綿毛みたいな丸くて白い光を放ちはじめていた。
ふわりと風が吹いた。
その風は、寿々さんの髪の匂いを運んできた。
ふわりと風が吹いた。
その風は、寿々さんの髪の匂いを運んできた。
「そっか。それも、わたしと同じだなぁ。じゃあ、いま付き合ってる人は?」
寿々ちゃんは初夏の夜空みたいにサラリと訊いたのに、ぼくの心臓は確実に一拍スキップをしていた。
東の空には、すでにいくつかの星が瞬きはじめていた。
港のどこかで、ぼーーーーう、と外国船の汽笛が鳴った。
「いないけど……」
寿々ちゃんは初夏の夜空みたいにサラリと訊いたのに、ぼくの心臓は確実に一拍スキップをしていた。
東の空には、すでにいくつかの星が瞬きはじめていた。
港のどこかで、ぼーーーーう、と外国船の汽笛が鳴った。
「いないけど……」
窓の外は無数の細い銀糸で霞(かす)んで見える。
会話が途切れた。ぼくはその沈黙を塗りつぶしたくて、静かにブランコを揺らした。
小さくため息をついたとき、ぼくらの足元を、すっと黒い影が通過した。空を見上げると、大きな羽を広げたトンビが、ゆっくりと音もなく旋回していた。
「つ、付き合って、くれるかな……」
いつの間にか、世界から音が消えていた。
寿々ちゃんの顔が、ゆっくりと微笑みに変わっていく。
でもーー、
「ごめんなさい」
やけに清々しい声色で、寿々ちゃんは言った。
その瞬間、ふたたび、すべての音が戻ってきた。
いつの間にか、世界から音が消えていた。
寿々ちゃんの顔が、ゆっくりと微笑みに変わっていく。
でもーー、
「ごめんなさい」
やけに清々しい声色で、寿々ちゃんは言った。
その瞬間、ふたたび、すべての音が戻ってきた。
きゃー、という声は、悲鳴なのか、あるいは、歓声なのか。
下から見上げた寿々ちゃんは、梅雨の晴れ間のコバルトブルーの空をバックに、全身で笑っているように見えた。
ぼくは無意識に心のシャッターを切って、この最高にきらきらした映像を胸にしっかりと定着させた。
下から見上げた寿々ちゃんは、梅雨の晴れ間のコバルトブルーの空をバックに、全身で笑っているように見えた。
ぼくは無意識に心のシャッターを切って、この最高にきらきらした映像を胸にしっかりと定着させた。
ふと、わたしたちの間にしんみりとした沈黙が降りてきた。
チ、チ、チ、チ、チ……。
壁の時計が秒針を刻む。
母の余命を、少しずつこの音が削り取っていくような気がして、わたしは慌てて沈黙を塗りつぶした。
「あ、あのさ」
「ん?」
「わたし、今日から、お母さんの部屋で一緒に寝てもいい?」
チ、チ、チ、チ、チ……。
壁の時計が秒針を刻む。
母の余命を、少しずつこの音が削り取っていくような気がして、わたしは慌てて沈黙を塗りつぶした。
「あ、あのさ」
「ん?」
「わたし、今日から、お母さんの部屋で一緒に寝てもいい?」
いざその答えを聞くと、わたしの胸のなかに淋しさの結晶みたいな黒い石ころがコロンと転がった感じがした。そして、その石ころの違和感がどうにも消せなくなるのだった。
南風は庭のハーブを揺らし、ぼくと勉さんの頬を心地よく撫でていく。
寿々ちゃんに電話をかけた。
三コール目で、澄んだ声が届けられた。
三コール目で、澄んだ声が届けられた。
ふわり
夏の光の粒子をいっぱいにはらませた風が吹いた。
夏の光の粒子をいっぱいにはらませた風が吹いた。
ぼくも小さく頷くだけで返事にした。
あまりにも静かだから、トーンを抑えてしゃべっているはずの絵里さんと手島さんの声が、離れているぼくの耳にまで届いてしまう。院内で唯一の雑音は、守衛さんが不器用そうに叩いているキーボードの音だけだ。

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