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好きな小説
おすすめ度 ★★★★
夏美のホタルを読んで、森沢明夫さんのファンになりました。そして、森沢明夫さんの他の作品を探してる時に、この
津軽百年食堂(森沢明夫)を見つけました。
森沢明夫さんの小説は表現がきれいで好きです。
心あたたまり、優しい気持ちにしてくれるので読んでいて心地よいです。
読み終わると、誰かに感謝したくなり、なぜか元気になれます。
この「津軽百年食堂」も例外ではなく、素晴らしい作品でした。
この冬も、津軽地方の雪は少なかった。
三月もいよいよ後半を迎えたけれど、すでに道路の積雪はほとんど消えていた。残ってたのは、歩道の脇に雪かきで積みあげられ、小山のようになった雪の残骸だけだ。
自分が子供の頃は、まだこの時期は銀世界だったはずだーー大森哲夫は、自身が営む古びた食堂の窓から、まだほの暗い外の風景を眺め、幼少の頃に見た風景を憶(おも)った。

津軽百年食堂(森沢明夫)

「津軽百年食堂 森沢明夫」おすすめ小説を読もう
- 2019/07/24
- 15:49
好きな小説
津軽百年食堂(森沢明夫)
おすすめ度 ★★★★
森沢明夫さんの小説は表現がきれいで好きです。
心あたたまり、優しい気持ちにしてくれるので読んでいて心地よいです。
読み終わると、誰かに感謝したくなり、なぜか元気になれます。
この「津軽百年食堂」も例外ではなく、素晴らしい作品でした。
この「津軽百年食堂」は津軽で百年続く、津軽蕎麦の店「大森食堂」の家族の話です。
百年前、大森賢治が蕎麦屋をはじめる頃の話から現在の四代目大森陽一の話、陽一の彼女筒井七海の話などが順番に出てきます。
その度に視点が変わり、面白く読みやすかったです。
メインは陽一と七海の恋愛話で、二人の出会い、そして仕事などの日常が丁寧に描写されています。
登場人物がみんな優しく、心温まるシーンが多く、癒されます。
二人の恋愛や仕事以外でも、家族の愛を感じるシーンもあります。
父親の哲夫とのエピソードは、家族の絆というか父親の愛を感じ、感動で胸がいっぱいになります。
親の有り難さを感じます。
陽一が修業の為にお世話になる中華料理屋に、父親哲夫と挨拶に行くシーンは、なんとも言えない切ない気持ちになります。親の愛というか、子を心配する思いというか、感動しますね。
反対に陽一が料理長と喧嘩して中華料理屋をやめてしまうシーンは、陽一の哲夫への思いに感動します。
百年前、大森賢治が蕎麦屋をはじめる頃の話から現在の四代目大森陽一の話、陽一の彼女筒井七海の話などが順番に出てきます。
その度に視点が変わり、面白く読みやすかったです。
メインは陽一と七海の恋愛話で、二人の出会い、そして仕事などの日常が丁寧に描写されています。
登場人物がみんな優しく、心温まるシーンが多く、癒されます。
二人の恋愛や仕事以外でも、家族の愛を感じるシーンもあります。
父親の哲夫とのエピソードは、家族の絆というか父親の愛を感じ、感動で胸がいっぱいになります。
親の有り難さを感じます。
陽一が修業の為にお世話になる中華料理屋に、父親哲夫と挨拶に行くシーンは、なんとも言えない切ない気持ちになります。親の愛というか、子を心配する思いというか、感動しますね。
反対に陽一が料理長と喧嘩して中華料理屋をやめてしまうシーンは、陽一の哲夫への思いに感動します。
書き出し
この冬も、津軽地方の雪は少なかった。
三月もいよいよ後半を迎えたけれど、すでに道路の積雪はほとんど消えていた。残ってたのは、歩道の脇に雪かきで積みあげられ、小山のようになった雪の残骸だけだ。
自分が子供の頃は、まだこの時期は銀世界だったはずだーー大森哲夫は、自身が営む古びた食堂の窓から、まだほの暗い外の風景を眺め、幼少の頃に見た風景を憶(おも)った。
北風が吹き、ペンキのはげかけた木枠の窓がカタカタと鳴った。すきま風がすぅっと忍び込んできて、哲夫の首筋をなでる。思わず着ていたどてらの襟を合わせて、ブルッと身震いした。
すでに梁(はり)も柱も飴色に光り、廊下や台所を歩けばギシギシと音をたてる。
淡い紫色をした早朝の道を、黄色いライトを点けた新聞配達のオートバイが通り抜けていった。
顔見知りのその配達員、マフラーを鼻までぐるぐる巻きにして、寒さに首をすくめながら走っていた。津軽に吹く冬の風は、金属質でずっしりと重く、じわじわと骨の髄にまでしみてくる。
顔見知りのその配達員、マフラーを鼻までぐるぐる巻きにして、寒さに首をすくめながら走っていた。津軽に吹く冬の風は、金属質でずっしりと重く、じわじわと骨の髄にまでしみてくる。
何もない平凡な一日を淡々と過ごせることが、実はどれぼど幸福でありたいことであるかー。
そのことに気づいてからは、哲夫はずっと同じことを神棚に祈っているのだ。
妻と母が、毎朝なにを祈っているのかは訊いたことがない。しかし、なんとなくだが、分かる気がする。きっと妻は、離れて暮らす子供の健康と幸せを、母はご先祖さまにひたすら感謝をしているのではないだろうか。
そのことに気づいてからは、哲夫はずっと同じことを神棚に祈っているのだ。
妻と母が、毎朝なにを祈っているのかは訊いたことがない。しかし、なんとなくだが、分かる気がする。きっと妻は、離れて暮らす子供の健康と幸せを、母はご先祖さまにひたすら感謝をしているのではないだろうか。
もしも陽一が嫁をもらったとしても、その嫁さんに苦労をかけてしまうだろう。現に、自分の妻の明子の手は、水仕事がたたってガサガサにひび割れてしまっている。正直、その手を見ると哲夫は、申し訳ない思いと、ありがたい思いが錯綜(さくそう)して、しみじみと切ない気持ちになってしまうのだ。老後は、いまよりもっと大事にしてやらなければ、などと近い将来を憶ったりする。
森沢明夫さんの小説の優しさの部分。こういうのを読むと優しい気持ちになれます。
昨晩、狂ったように降り続けた冷たい雨はすっかりあがり、今朝の空は青一色だった。街道筋へと続くまっすぐな田舎道には、清新な光が凛と満ちて、目を細めたくなる。
時折、さらりと春風が吹いた。甘い土の匂いをたっぷり含んだその涼風は、うっすらと汗の浮いた賢治の首筋を心地良く冷ましてくれた。
遠くに連なる山々は、つややかな若草色に萌えていたが、所々、淡いピンク色のまだら模様も見られた。遅咲きの山桜だ。
ちょうど視線の先に無数の水たまりが見える。くっきりと空を映した、青い水たまりだ。それを眺めるのが愉(たの)しい。とりわけこの時期は、街路に植えられた桜の花が青空と一緒に映り込んで、とても雅(みやび)やかなのだ。
風が吹き、水面にひらと花びらが落ちれば、かすかな波紋が青空をゆらゆらと揺らす。それがまた、愉しい。
風が吹き、水面にひらと花びらが落ちれば、かすかな波紋が青空をゆらゆらと揺らす。それがまた、愉しい。
「馬鹿野郎。そんな欠けちまった包丁はもう役に立たねえ。田舎の貧乏食堂のおやっさんにでも送って使わせてやれ。あの寝癖頭のおやっさんなら刃欠け包丁でも喜ぶんじゃねえのか」
料理長はそう言ったあと、ヒヒヒと、卑しく笑った。
中略
身内を馬鹿にされると、胃のあたりから意味不明な熱の塊のようなものが突き上げてきて、それを抑えるのが大変だった。気づけば僕は、砥石の上にのせていた中華包丁を動かせなくなっていたのだ。呼吸の仕方を忘れてしまって、でも耳の奥の方ではドクドクと血液が流れる音がして、体全体がぎゅっと硬直したみたいになっていた。
唯一、動かせたのは、口だった。
「父は、自分の包丁を、いつも大事にしています……」
砥石に視線を落としたまま、なんとか掠れた声をしぼりだした。
料理長は、フン、と鼻で笑った。
「そうは見えなかったなあ、あのおやっさんは」
料理長はそう言ったあと、ヒヒヒと、卑しく笑った。
中略
身内を馬鹿にされると、胃のあたりから意味不明な熱の塊のようなものが突き上げてきて、それを抑えるのが大変だった。気づけば僕は、砥石の上にのせていた中華包丁を動かせなくなっていたのだ。呼吸の仕方を忘れてしまって、でも耳の奥の方ではドクドクと血液が流れる音がして、体全体がぎゅっと硬直したみたいになっていた。
唯一、動かせたのは、口だった。
「父は、自分の包丁を、いつも大事にしています……」
砥石に視線を落としたまま、なんとか掠れた声をしぼりだした。
料理長は、フン、と鼻で笑った。
「そうは見えなかったなあ、あのおやっさんは」
ここのシーンは涙しそうになったので書きしるしました。
わたしは記憶の奥の方にしまってある、懐かしいさくらまつりを掘り起こした。スピッツの音楽が、甦る過去に切ないような味付けをしてくれる。
薄暗い夕空を、一羽のカラスが鳴きながら東に向かって渡っていた。少し強い風には土と長葱の匂いが混じっていた。畑がすぐそばに広がっているのだ。
沼田さんは、レモン色の空へと遠ざかっていくカラスを目で追いながら続けた。
沼田さんは、レモン色の空へと遠ざかっていくカラスを目で追いながら続けた。
照れ笑いのままそう言ったけれど、彼女の吐いた「天職」という言葉は、僕の内側をヤスリみたいにザラリと擦(こす)った。
ベランダに面した窓から空を見上げた。西の方から墨を流したみたいな不気味な黒雲がじわじわと押し寄せてきて、東京の上空を低く覆い尽くしていた。
窓を開けた。すうっと流れ込んできた空気は、ひたひたに水分を含んでいて、首筋にひんやりとまとわりついた。少し埃っぽいような雨の匂いを大きく吸い込む。
奥さんは、ふわふわのコットンみたいな、何とも言えないやわらかな笑みを浮かべていた。
座ったとたん、背骨からすっかり力が抜け落ちてしまった。地面に接した尻も、ふわふわと重さを失って不安定だった。大袈裟に脈打つ心臓ーーそれ以外の内臓はすべて空っぽになって、代わりにどす黒い霞でも詰められたみたいな、頼りなくて、不安で、焦燥感に焼かれたような最低の気持ちになっていた。
すると、よっちゃんは、カボンとひとくちでお酒を飲んで、手酌しながら「あいつを仕上げてたんだ」と、傍らに置かれた風呂敷包みをあごで差した。
柱時計がボーンと一回鳴った。そしてまた、カチカチカチと小刻みに時を刻みだす。未來を過去に変えていく、すべてにとって平等なリズム。みんな少しずつ成長し、歳をとっていく。

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