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好きな小説
おすすめ度 3.8
夕闇に風花が舞っていた。
タクシーを降りる足が縺(もつ)れた。ポリスジャンパーを着込んだ鑑識係員が、署庁舎の玄関前で待っていた。促されて署内に入った。当直勤務員の執務スペースを抜け、薄暗い廊下を進み、裏の通用口から職員用駐車場に出た。
霊安室は敷地の奥まった一角にひっそりとあった。窓のないバラック建ての小屋。低く唸る換気扇の音が「死体保管中」を告げている。鍵を外した鑑識係員はドアの脇に退いた。ここでお待ちします。
そんな控えめな目配せを残して。
64(ロクヨン)
「64ロクヨン) 横山秀夫」おすすめ小説を読もう
- 2019/07/01
- 12:07
好きな小説
64(ロクヨン) 横山秀夫
おすすめ度 3.8
『半落ち』を読んで感動したので、
横山秀夫さんのもう一つの代表作
『64(ロクヨン)』を読んでみたくなりました。
64(ロクヨン)とは、
わずか一週間しかなかった昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件のこと。
そして、14年たったいまも犯人は逮捕されていない。
横山秀夫さんのもう一つの代表作
『64(ロクヨン)』を読んでみたくなりました。
64(ロクヨン)とは、
わずか一週間しかなかった昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件のこと。
そして、14年たったいまも犯人は逮捕されていない。
三上は『64事件』当時は刑事部で初動捜査に加わっていたが、今は広報官で現場からはなれている。
警察庁長官が、時効間近の『64事件』の被害者の父親、雨宮芳男宅を弔問のため訪問することが決定した。
三上は広報官として雨宮芳男に警察庁長官訪問の報告と段取りをつける為に雨宮宅を訪れる。
しかし、雨宮芳男は長官訪問を断った。三上は雨宮の態度に警察への不信感、敵対心を感じた。
長官訪問は警察のPRの為だけだとわかっているのだろう。
未だに犯人逮捕できない警察に協力出来ないのも当然だろう、とも思う三上だが、広報官としての職務を全うしなければならなかった。
雨宮の心を閉ざしている理由を調べていくうちに『64事件』の捜査上に三上も知らないトラブルがあったのではないか、そして、そのトラブルを警察は隠蔽したのではないかと疑惑を持つ。
調査をする中で『幸田メモ』の存在を知る。これに捜査トラブルの秘密が隠されている、と三上は思った。
幸田とは『64事件』で「自宅班」にいた幸田一樹のことで『64事件』の半年後に退職している。幸田は隠蔽することに耐えきれず退職したのではないか、
そして、それをメモに残したのだろう。
そんななか、長官視察の前日に、64事件を模倣した誘拐事件が発生する。この事件により長官視察は中止になる。
警察は今回の誘拐事件解決に動き出す。『64事件』の模倣犯なのか、それとも『64事件』の犯人なのか?
ここからストーリーが一気に動き出す。
『64事件』の犯人は? 模倣した誘拐事件の犯人は?
そして感動の結末へ。
前半は少し読み進まなかったですが、ストーリーが動きだしてからは一気に読みたくなります。
警察庁長官が、時効間近の『64事件』の被害者の父親、雨宮芳男宅を弔問のため訪問することが決定した。
三上は広報官として雨宮芳男に警察庁長官訪問の報告と段取りをつける為に雨宮宅を訪れる。
しかし、雨宮芳男は長官訪問を断った。三上は雨宮の態度に警察への不信感、敵対心を感じた。
長官訪問は警察のPRの為だけだとわかっているのだろう。
未だに犯人逮捕できない警察に協力出来ないのも当然だろう、とも思う三上だが、広報官としての職務を全うしなければならなかった。
雨宮の心を閉ざしている理由を調べていくうちに『64事件』の捜査上に三上も知らないトラブルがあったのではないか、そして、そのトラブルを警察は隠蔽したのではないかと疑惑を持つ。
調査をする中で『幸田メモ』の存在を知る。これに捜査トラブルの秘密が隠されている、と三上は思った。
幸田とは『64事件』で「自宅班」にいた幸田一樹のことで『64事件』の半年後に退職している。幸田は隠蔽することに耐えきれず退職したのではないか、
そして、それをメモに残したのだろう。
そんななか、長官視察の前日に、64事件を模倣した誘拐事件が発生する。この事件により長官視察は中止になる。
警察は今回の誘拐事件解決に動き出す。『64事件』の模倣犯なのか、それとも『64事件』の犯人なのか?
ここからストーリーが一気に動き出す。
『64事件』の犯人は? 模倣した誘拐事件の犯人は?
そして感動の結末へ。
前半は少し読み進まなかったですが、ストーリーが動きだしてからは一気に読みたくなります。
書き出し
夕闇に風花が舞っていた。
タクシーを降りる足が縺(もつ)れた。ポリスジャンパーを着込んだ鑑識係員が、署庁舎の玄関前で待っていた。促されて署内に入った。当直勤務員の執務スペースを抜け、薄暗い廊下を進み、裏の通用口から職員用駐車場に出た。
霊安室は敷地の奥まった一角にひっそりとあった。窓のないバラック建ての小屋。低く唸る換気扇の音が「死体保管中」を告げている。鍵を外した鑑識係員はドアの脇に退いた。ここでお待ちします。
そんな控えめな目配せを残して。
三上義信はドアを押し開いた。蝶番(ちょうつがい)が鳴く。クレゾールが目と鼻にくる。肘の辺りに、コートの生地を通して食い込む美那子の指先を感じていた。
蝶番が鳴くという表現に場の緊張感が伝わり、指先を感じていた。という表現に美那子の緊張が伝わります。
あゆみ瞬時に呑み込んだ。娘の名を呼べば、娘の遺体になってしまいそうな気がした。
白布を捲る。
髪ー額ー閉じた目ー鼻ー唇ー顎ー。蒼白い少女の死顔が露(あらわ)になった。
凍りついていた空気がふっと動き、美那子の額が肩口に押しつけられた。肘を刺していた五指が弛緩していくのがわかる。
三上は天井を仰いでいた。腹の深いところから息が吐き出されていく。身体特徴を確かめるまでもなかった。D県から新幹線とタクシーを乗り継いで四時間、遺体の身元確認作業はものの数秒で終わった。
白布を捲る。
髪ー額ー閉じた目ー鼻ー唇ー顎ー。蒼白い少女の死顔が露(あらわ)になった。
凍りついていた空気がふっと動き、美那子の額が肩口に押しつけられた。肘を刺していた五指が弛緩していくのがわかる。
三上は天井を仰いでいた。腹の深いところから息が吐き出されていく。身体特徴を確かめるまでもなかった。D県から新幹線とタクシーを乗り継いで四時間、遺体の身元確認作業はものの数秒で終わった。
遺体身元確認する緊張感が伝わる文章で、横山秀夫さんらしい表現です。
美那子は頷くでもなく虚ろだった。ぽっかりと開いた大きな瞳が、意思も感情もないガラス玉のように映る。
ガラス玉のように映るという表現に瞳の虚ろさがよく伝わる
コートの背中が小さくつつかれた。視線を流すと美那子の懇願の瞳にぶつかった。早くここを離れたいと言っている。思いは三上も同じだった。
懇願の瞳、目で訴えている表現が伝わる
静かだ。ワックスの効いた廊下に三上の靴音だけが響く。
『静かだ』の後に『ワックスの……靴音だけが響く』と続くと具体的に伝わって映像が浮かぶな。こんな表現ができれば文章に厚みが出るんだなぁ
ほんのさわりの部分しか三上は知らない。その後どんな人間が捜査線上に浮かび、どう振り落とされ、今現在どれほどの容疑者が残っているのか、具体的なことはまったくわからない。ましてや、実弟に嫌疑の目を向けた県警に対する雨宮の感情ともなると闇をみつめるに等しい。
闇をみつめるに等しい。と表現すると、全くわからないというより、もっと深くわからないことが伝わる。
赤間が腰を上げた。三上より十センチは低いはずの視線が、遥か上から三上を見下ろしていた。
赤間の方が立場が優勢になっていることを視線で表現
二渡の顔が網膜にあった。
年若い記者たちに詰め寄られる三上を見て何を思ったろう。無様さを笑ったか。同情していたのか。
それとも人事考課の一材料として頭の手帳に書き込みでもしたか。
年若い記者たちに詰め寄られる三上を見て何を思ったろう。無様さを笑ったか。同情していたのか。
それとも人事考課の一材料として頭の手帳に書き込みでもしたか。
頭の手帳に書き込みという表現が二渡の人事らしさを表しているなと思う
三上は炬燵を出て寝巻に着替えた。音を殺して廊下を歩き、洗面所に入った。
ほんの少し蛇口を捻る。細い水で静かに顔を洗う。くたびれた面相が鏡に張り付いていた。
ほんの少し蛇口を捻る。細い水で静かに顔を洗う。くたびれた面相が鏡に張り付いていた。
深夜遅く、家族が寝静まり疲れた様子が浮かぶ
今夜もせいぜい楽しめーー。
湯舟でも茶の間で飲んでいる間も、心ないその一言が羽音のように耳にあった。
湯舟でも茶の間で飲んでいる間も、心ないその一言が羽音のように耳にあった。
ずっとその一言が気になることが伝わる。
膝に煙草の灰が落ちた。三上は慌てて手で払い、灰皿を引き寄せて煙草を揉み消した。そうしながら思う。
考え事に夢中になっている様子が煙草の灰が落ちたのでわかる
蝋燭に火を灯した雨宮がこちらを振り向いている。
三上は深く一礼して仏間に入った。足の裏に畳の冷たさを感じた。紫色の座布団をそっと脇によけ、仏壇の前で膝を揃えた。謝罪の言葉は既に喉元近くにあった。
三上は深く一礼して仏間に入った。足の裏に畳の冷たさを感じた。紫色の座布団をそっと脇によけ、仏壇の前で膝を揃えた。謝罪の言葉は既に喉元近くにあった。
畳の冷たさに緊張感と静けさなどが伝わる
「長官の発言の狙いは何なのでしょうか」
瞬時、赤間の瞳が揺れた。
瞬時、赤間の瞳が揺れた。
瞳が揺れた赤間が何かを隠しているのが伝わる
「触られたり誘われたりしなかったか」
驚いた顔に、次の瞬間笑みが広がった。
「何もありませんでした。怖い女だと思われたのかもしれません」
「確かに怖い」
吐く息で言い、三上は壁の時計を見やった。
驚いた顔に、次の瞬間笑みが広がった。
「何もありませんでした。怖い女だと思われたのかもしれません」
「確かに怖い」
吐く息で言い、三上は壁の時計を見やった。
「確かに怖い」を言葉にしなかったことを吐く息で言いと表現
「マスコミと話をしてるんじゃない! なぜ俺たちにまで実名を隠すのか訊いてるんだ」
ジジジィと机の携帯が動いた。御倉を目で縛って手を伸ばした。蔵前からだった。
ジジジィと机の携帯が動いた。御倉を目で縛って手を伸ばした。蔵前からだった。
目で縛ってというと、睨むでもなく、その場で待てと目で訴える感じがよくわかる

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