読書を趣味に ≫ 幸せな人生百年以上をめざす ≫ 「虹の岬の喫茶店 森沢明夫」おすすめ小説を読もう
おすすめ度 ★★★★
昨年森沢明夫さんの夏美のホタル (角川文庫)を読んで、表現の美しさや優しい気持ちになる文章に感動したので、森沢明夫さんの本をもっと読みたいと思い、この本を読むことにしました。
岬にポツンとある喫茶店。決してきれいな建物ではないが、人の温かさを感じることが出来る喫茶店だ。
この作品も森沢明夫さんらしい、きれいな文章表現と登場人物の心の優しさに癒され、そして感動。森沢明夫さんらしく表現すれば、読んでいるうちに文字がゆらゆらと揺れだします。
この喫茶店のオーナーは悦子さんという初老の女性。
この喫茶店に訪れる、いろいろな闇をもった人に悦子さんが珈琲と音楽で癒しをくれる。
悦子さんの優しさに心癒され感動すること間違いなし。
寝室の窓が、ザアッと大きな音を立てた。
強い風にあおられた大粒の雨粒が、窓ガラスを叩いたのだ。
私はその音で目を覚ました。
羽毛布団のぬくもりのなか、薄く目を開ける。
遮光カーテンの隙間に覗くのは、まだ明け切らない春の夜の深い闇だった。
右手でごそごそと枕元の携帯を探り当て、時刻を確認すると、デジタル表示は午前三時三十四分を表示していた。
このところずっと眠りが浅く、夜中に何度もこうして目覚めてしまう。しかも、いったん目覚めたら最後、なかなか寝付けないのだ。四十歳になったばかりだというのに、まるで爺さんみたいだな……そう思いつつも、一方では眠りが浅くなる原因を自分なりに痛いほど理解してもいる。

虹の岬の喫茶店 森沢明夫
「虹の岬の喫茶店 森沢明夫」おすすめ小説を読もう
- 2019/06/16
- 17:13
「虹の岬の喫茶店 森沢明夫」
おすすめ度 ★★★★
昨年森沢明夫さんの夏美のホタル (角川文庫)を読んで、表現の美しさや優しい気持ちになる文章に感動したので、森沢明夫さんの本をもっと読みたいと思い、この本を読むことにしました。
岬にポツンとある喫茶店。決してきれいな建物ではないが、人の温かさを感じることが出来る喫茶店だ。
この作品も森沢明夫さんらしい、きれいな文章表現と登場人物の心の優しさに癒され、そして感動。森沢明夫さんらしく表現すれば、読んでいるうちに文字がゆらゆらと揺れだします。
この喫茶店のオーナーは悦子さんという初老の女性。
この喫茶店に訪れる、いろいろな闇をもった人に悦子さんが珈琲と音楽で癒しをくれる。
悦子さんの優しさに心癒され感動すること間違いなし。
書き出し
寝室の窓が、ザアッと大きな音を立てた。
強い風にあおられた大粒の雨粒が、窓ガラスを叩いたのだ。
私はその音で目を覚ました。
羽毛布団のぬくもりのなか、薄く目を開ける。
遮光カーテンの隙間に覗くのは、まだ明け切らない春の夜の深い闇だった。
右手でごそごそと枕元の携帯を探り当て、時刻を確認すると、デジタル表示は午前三時三十四分を表示していた。
このところずっと眠りが浅く、夜中に何度もこうして目覚めてしまう。しかも、いったん目覚めたら最後、なかなか寝付けないのだ。四十歳になったばかりだというのに、まるで爺さんみたいだな……そう思いつつも、一方では眠りが浅くなる原因を自分なりに痛いほど理解してもいる。
希美は黙ったまま、笑い合う親子の様子を眺めていた。
しかし、その親子とすれ違う刹那には、すっと唇を引き結び、凛とした目で前を向いたのだった。つないだ手に込められた希美の小さな指の力が、私の胸の芯にまでぴりぴりと伝わった。
しかし、その親子とすれ違う刹那には、すっと唇を引き結び、凛とした目で前を向いたのだった。つないだ手に込められた希美の小さな指の力が、私の胸の芯にまでぴりぴりと伝わった。
母親を亡くした幼い希美が幸せそうな親子を見て何かを感じている様子が浮かぶ。
田園を吹き渡る風は、透明な光をはらんできらめき、しめったまま凝り固まっていた私の心をさらさらと解きほぐしてくれるような気がした。
この表現が森沢明夫さんらしくて好きです。
見習いたい。
見習いたい。
小さなたんぽぽが花を咲かせて、優しい風に揺れていた。
風ではなく、優しい風になるだけで違った景色が浮かぶ。
峠を越えて九十九折り(つづらおり)の坂道を下り切ったとき、いきなり風景が開けた。目の前に藍色の海原が広がったのだ。歓声をあげた希美の顔に、パッと喜色が広がる。
遥か崖の下から、磯の香りをはらんだ海風がふわっと吹き上がってきた。午後の日差しをひらひらと照り返す紺色の海原がまぶしい。
絵を褒めたら、眼鏡の奥の鳶(とび)色の瞳に、ほんのわずかだけれど光がさした気がした。
彼女はその目でぼくをチラリと見て、はにかむような表情を浮かべたのだ。でも、またすぐに視線を足元に落としてしまう。
彼女はその目でぼくをチラリと見て、はにかむような表情を浮かべたのだ。でも、またすぐに視線を足元に落としてしまう。
彼らは、まるで洗練された大人みたいなすまし顔を浮かべて、ぼくとの距離を丁寧にとりはじめたのだった。
イマケンの就職活動の邪魔をしちゃ悪いよな……。
そしてぼくの手の届く範囲から、なんとなく人の気配が稀薄になっていったのだ。
イマケンの就職活動の邪魔をしちゃ悪いよな……。
そしてぼくの手の届く範囲から、なんとなく人の気配が稀薄になっていったのだ。
就職活動で友達に取り残された感がいい。
「はぁ……」
自分の内側の、ずっと奥の方から、憂鬱な空よりもよほど湿っぽいため息が漏れ出した。
自分の内側の、ずっと奥の方から、憂鬱な空よりもよほど湿っぽいため息が漏れ出した。
ため息が出たよりもっと重くドンヨリ感が出る。
秋の澄んだ夜空に、白い月が浮かんでいた。
あと数日で真円に満ちそうな、中途半端に太った月だ。
月明かりは仄青(ほのあお)く、ひと気のないこの岬全体を、夜の水族館のようにぼんやりと浮かび上がらせていた。眼下に見下ろす海は黒光りしていて、まるで溶けたコールタールのようにてらてらと月光を反射させている。
黒い海面を滑った夜空は、すうっと断崖を駆け上り、岬の上に涼やかな風を吹かせた。その風を受けて、淡いススキのシルエットがざわめく。
あと数日で真円に満ちそうな、中途半端に太った月だ。
月明かりは仄青(ほのあお)く、ひと気のないこの岬全体を、夜の水族館のようにぼんやりと浮かび上がらせていた。眼下に見下ろす海は黒光りしていて、まるで溶けたコールタールのようにてらてらと月光を反射させている。
黒い海面を滑った夜空は、すうっと断崖を駆け上り、岬の上に涼やかな風を吹かせた。その風を受けて、淡いススキのシルエットがざわめく。
第三章《秋》ザ・プレイヤーの書き出しです。岬の秋の夜を表現。森沢明夫さんの季節感と自然の表現はいつもきれい。
私は、あらためて、もう一度、便箋に目を通した。
読んでいるうちに、藍色の文字の列がゆらゆらと揺れ出した。
私の目に、また、しずくがわき出してしまったのだ。
読んでいるうちに、藍色の文字の列がゆらゆらと揺れ出した。
私の目に、また、しずくがわき出してしまったのだ。
便箋を読んでるうちに自然と涙が出てくる様子がよく伝わる。
「うわぁ、本当に寒い。でも、きれい」
真っ白い息を吐きながら、悦子さんは夜空を見上げた。
青黒い宇宙の広がりに音もなく浮かぶ満月は、まるでバニラアイスみたいに冷たく白く光っていて、その清光(せいこう)を浴びた冬枯れの岬は、ぼんやりと幻想的なブルーに浮かび上がっていた。
時折、崖の下から吹き上がってくるのは凍ったやすりのような海風で、私たちの頬をチリチリとこすっていく。
真っ白い息を吐きながら、悦子さんは夜空を見上げた。
青黒い宇宙の広がりに音もなく浮かぶ満月は、まるでバニラアイスみたいに冷たく白く光っていて、その清光(せいこう)を浴びた冬枯れの岬は、ぼんやりと幻想的なブルーに浮かび上がっていた。
時折、崖の下から吹き上がってくるのは凍ったやすりのような海風で、私たちの頬をチリチリとこすっていく。
冬の冷たい空が頭に浮かぶ。
チリチリとこすっていく、は風の冷たさの厳しさが伝わってくる。
チリチリとこすっていく、は風の冷たさの厳しさが伝わってくる。
うぉぉぉーーーん。
遠吠えは、宇宙へと続く藍色の夜空に吸い込まれて、すうっと霧散した。
月の静寂が、ぐっと深まった気がした。
遠吠えは、宇宙へと続く藍色の夜空に吸い込まれて、すうっと霧散した。
月の静寂が、ぐっと深まった気がした。
『遠吠えは…霧散した』が先に入ると静寂さが一段と伝わる。
二人で向かい合ってテーブルにつき、コクのあるブラックをゆっくりと味わう。凍えていた身体が、芯の方からじわじわ溶かされていくようだ。「美味いなぁ……」
凍えていた身体が珈琲を飲んであたたまるのが伝わる。
「ふぅ」とため息まじりに吐き出した紫煙は、間接照明の黄色い光のなかを、龍のようにうねりながら漂った。
「へぇ」
何喰わぬような顔と声になるよう、俺はひそかに心を砕いていた。
何喰わぬような顔と声になるよう、俺はひそかに心を砕いていた。
だが、その言葉はコーヒーと一緒に飲み込んだ。訊かれてもいないのに、わざわざ話すこともない。
一瞬、むっとした店内の熱気に押し返そうになったが、思い切ってそのまま店に入り、さらに靴を脱いで奥の部屋にあがった。
わたしは透き通るような風鈴の音に耳を澄ましながら、そっと目を閉じた。うまくいけば、このまま少しばかりの午睡(ごすい)に入れるかも知れない。
首を振る扇風機の微風が、絹のようにやわらかで心地よい。
呼吸が整ってくると、疲労の澱(おり)がじわじわと畳の中へ溶け出していくような気がしてくる。
呼吸が整ってくると、疲労の澱(おり)がじわじわと畳の中へ溶け出していくような気がしてくる。
彼の描いた絵を眺めながら、どんなところを旅してきたのかを夢想するのが愉しみだった。そして、わたしの想像に、彼のリアルな解説が加わると、気持ちに羽が生えて、遠くの旅先へと飛んでいけるような気がするのだ。
夫の描いた絵を眺める幸せ感が解説が加わり一段と大きくなっている感じが、すごくいい
夫が描きたかった絵は、見る者を圧倒するような絵ではなく、むしろ乾いた砂に落ちた一滴の水のように、人の心のひだにすうっと沁み込んで消えるような作品だったのだ。
この表現がすうっと沁み込んできます。
店に出てみると、入口のドアの前に真理と美保が立っていた。いかにも夏休みの海辺の少女らしく、二人ともよく日に焼けていて、きゅっと結んだポニーテールが可愛らしい。Tシャツと短パンから伸びる四肢には、溌剌(はつらつ)とした若さがみなぎり、足には、わたしが買ってあげたおそろいのビーチサンダルを履いていた。
夏の少女が頭に映像として浮かぶ。
「ねえ、バーバ」
銀のスプーンを手にしたまま、姉の真理がこっちを振り向いた。ポニーテールのシルエットが、ぴょんと揺れる。
銀のスプーンを手にしたまま、姉の真理がこっちを振り向いた。ポニーテールのシルエットが、ぴょんと揺れる。
振り向いたの後の『ポニーテールが……』で頭に映像が浮かびやすくなる。
「うん」
「うん」
二つの小さなシルエットが、そろって返事をして、それぞれのポニーテールがぴょんと跳ねた。
「うん」
二つの小さなシルエットが、そろって返事をして、それぞれのポニーテールがぴょんと跳ねた。
勢いよく元気に返事した少女の様子が浮かぶ。
遠ざかっていく二人と一匹の背中を、わずかに暖色を帯びはじめた夏の淡い夕照が包み込む。外は、いつの間にか、カナカナカナ、というヒグラシと哀歌で満ちていた。
夏の終わり夕暮れのきれいな景色が頭に浮かぶ。これが森沢明夫さんらしくて良い。
わたしは、湿っぽいため息を漏らした。祥子のことを憶うと、いつもこんなため息をついてしまうのだ。
自殺した妹のことを億う時のため息は普通のため息ではない
それから二日後の岬は、おどろおどろしいような空に覆われていた。
低くたれこめた黒雲が、もの凄い速さで頭上を移動していく。外海からとめどなく押し寄せる乱暴な波たちは、ごうごうと雷のような怒声を轟かせて、岬の断崖に噛みついた。草木を激しく揺らす風は、湿気をたっぷり含んでいて、不気味なほどに生暖かい。
低くたれこめた黒雲が、もの凄い速さで頭上を移動していく。外海からとめどなく押し寄せる乱暴な波たちは、ごうごうと雷のような怒声を轟かせて、岬の断崖に噛みついた。草木を激しく揺らす風は、湿気をたっぷり含んでいて、不気味なほどに生暖かい。
台風が接近するのが伝わる。岬の断崖に噛みついたという表現が好き。

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