読書を趣味に ≫ 小説から学ぶ ≫ 小杉健治さんの『それぞれの断崖』の表現、描写
私は定年後の趣味と実益になればと、小説を書くことに挑戦しています。
しかし、出来上がったものを読み返してみると、自分の表現力や描写の無さ、稚拙さにがっくりします。
小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して学び、自分の表現力、描写力を上げていこうと思っています。
今回は
小杉健治さんの『それぞれの断崖』です。
小杉健治さんの作品は、これまでにもたくさん読みましたが、ストーリーが面白く感動した作品が多かったです。
小杉健治さんの作品の中で一番の、これまでのおすすめ作品は
『父からの手紙』です。
今回の
『それぞれの断崖』はどうでしょうか?
遠藤憲一さん主演でドラマ化もされたみたいです。
これから楽しみにしながら、表現、描写を学びながら、読み始めます。
ふと眉を寄せた丹野は、失礼と言ってたばこを取り出してくわえた。ライターで火を点けながらどう答えを切り出すか考えているふうにも思えたが、悲惨だった当時のことを思い出すことにためらいがあるようにも見えた。が、彼は心の整理がついたかのように煙を吐き出してから、静かに言った。
「警察に届けたほうがいいんじゃないの」
真紀が不安そうに言う。
「警察?」
いきなり目の前が黒い幕で被われたようになった。
熱風に煽られるように顔が熱くなった。きょうまで、事件に関する新聞記事やテレビの報道番組など目もくれなかった。だから、マスコミがどのように事件を見ているかなど知らなかった。だが、今はじめて自分が崖っぷちに追いやられていることに気づいた。
叔父が何か言いたそうに皺の浮いた口許を動かしていたが、決心がつきかねているように何度も息を吐き、手で顔をなでている。
「叔父さん。何か話でも」
私のほうが辛抱しきれなくなって先回りした。
文句を言うつもりだったが、なんだかうまくはぐらかされてしまった。しかし、じきに犯人逮捕があるというのはほんとうだろうか。いつしか、私はその言葉に翻弄されたように、怒りが霧散していった。
いやな空気を振り払うように、私はアクセルを踏み込んだ。
雨音が聞こえた。私は虚ろな目で窓の外を見やった。ガラス窓に雫が散った。激しく、狂おしく、石礫(いしつぶて)を叩きつけるような雨足が耳朶を打った。
彼女の悲しみが理解出来た。心身の充足感が収まった隙を窺い、一気に濁流のような呪わしい現実の悲しみが、襲いかかったのだ。
扉を開けて出てきた彼女の顔が、春の光る風を受けたように爽やかだったことに救われ、たちまち自分の心に浮かんだ、暗い想念は立ち消えた。
小杉健治さんの『それぞれの断崖』の表現、描写
- 2019/09/05
- 18:25
私は定年後の趣味と実益になればと、小説を書くことに挑戦しています。
しかし、出来上がったものを読み返してみると、自分の表現力や描写の無さ、稚拙さにがっくりします。
小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して学び、自分の表現力、描写力を上げていこうと思っています。
今回は
小杉健治さんの作品は、これまでにもたくさん読みましたが、ストーリーが面白く感動した作品が多かったです。
小杉健治さんの作品の中で一番の、これまでのおすすめ作品は
今回の
遠藤憲一さん主演でドラマ化もされたみたいです。
これから楽しみにしながら、表現、描写を学びながら、読み始めます。
ふと眉を寄せた丹野は、失礼と言ってたばこを取り出してくわえた。ライターで火を点けながらどう答えを切り出すか考えているふうにも思えたが、悲惨だった当時のことを思い出すことにためらいがあるようにも見えた。が、彼は心の整理がついたかのように煙を吐き出してから、静かに言った。
「警察に届けたほうがいいんじゃないの」
真紀が不安そうに言う。
「警察?」
いきなり目の前が黒い幕で被われたようになった。
熱風に煽られるように顔が熱くなった。きょうまで、事件に関する新聞記事やテレビの報道番組など目もくれなかった。だから、マスコミがどのように事件を見ているかなど知らなかった。だが、今はじめて自分が崖っぷちに追いやられていることに気づいた。
叔父が何か言いたそうに皺の浮いた口許を動かしていたが、決心がつきかねているように何度も息を吐き、手で顔をなでている。
「叔父さん。何か話でも」
私のほうが辛抱しきれなくなって先回りした。
文句を言うつもりだったが、なんだかうまくはぐらかされてしまった。しかし、じきに犯人逮捕があるというのはほんとうだろうか。いつしか、私はその言葉に翻弄されたように、怒りが霧散していった。
いやな空気を振り払うように、私はアクセルを踏み込んだ。
雨音が聞こえた。私は虚ろな目で窓の外を見やった。ガラス窓に雫が散った。激しく、狂おしく、石礫(いしつぶて)を叩きつけるような雨足が耳朶を打った。
彼女の悲しみが理解出来た。心身の充足感が収まった隙を窺い、一気に濁流のような呪わしい現実の悲しみが、襲いかかったのだ。
扉を開けて出てきた彼女の顔が、春の光る風を受けたように爽やかだったことに救われ、たちまち自分の心に浮かんだ、暗い想念は立ち消えた。
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