○○のおかげで人生が一段と楽しくなった ≫ 小説の書き出しを学ぶ
東野圭吾さんの夜明けの街での書き出し
- 2020/07/11
- 08:00

不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。妻と子供を愛しているなら、それで十分じゃないか。ちょっとした出来心でつまみ食いをして、それが元で、せっかく築き上げた家庭を壊してしまうなんて愚の骨頂だ。 もちろん世の中に素敵な女性はたくさんいる。僕だって、目移りしないわけじゃない。男なんだから。それは当然のことだ。でも目移りするのと、心まで奪われるのとはまるで違う。 不倫が原因で離婚して、慰謝料代わりにマンシ...
小説の書き出し 柚木裕子さんの最後の証人より
- 2020/06/11
- 08:00

柚木裕子さんの最後の証人より 緑色のワインボトルが、床に落ちた。 半分ほど残っていた中身が、瓶の口から波打って溢れ出す。毛足の長いグレーの絨毯に、赤い染みが広がる。 床にはワインボトルのほかに、肉片や野菜が散らばっていた。少し前に運ばれたディナーの、ステーキやサラダだった食材だ。 倒れたディナーワゴンを挟んで、男と女が向かい合っていた。シャワーを浴びた後なのだろう。ふたりとも、バスロープを羽織って...
沢木冬吾さんの償いの椅子の書き出し
- 2020/02/08
- 08:00

沢木冬吾さんの償いの椅子の書き出し 灰色の煙突から流れ出る淡い煙が、晴朗な空に霧散していく。 錦繍に包まれた小径を、能見亮司は進んでいった。喪服の人々とすれ違う。みなの踏みしめる枯れ葉の快いさざめきが、耳をくすぐった。 玄関付近に喪服の男女がたむろしていた。 自動ドアをくぐると、広い円形のホール。丸天井には三角の天窓。そこから幾筋もの光が差し込み、床にまだらを作っている。 光線のただ中に車椅子を止...
小説の書き出し 垣谷美雨さんの夫の墓には入りませんより
- 2020/01/08
- 08:00

垣谷美雨さんの夫の墓には入りませんより どうして悲しくないんだろう。 夫が死んだというのに、何の感情も湧いてこない。 それどころか、祭壇に飾られた遺影を見つめるうちに、まるで知らない人のように思えてくる。 遺影の周りには、たくさんの菊が飾られていた。菊の白と葉の緑の色の二色を巧みに生かして、水が流れるようなデザインになっている。寸分の狂いもないうえに、花の大きさまで揃っているから、プラスチックでで...
小説を読もう「償い 矢口敦子」
- 2019/12/07
- 22:35
「償い 矢口敦子」の表現償い (幻冬舎文庫)posted with ヨメレバ矢口 敦子 幻冬舎 2003-06-01 AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo ebookjapan 書き出しそのころ、男は羽をもがれた蝿のように地べたを這いずりまわっていた。
埼玉県光市、新宿から東部線の快速電車で三十分のベッド・タウン。男がいつこの土地に足を踏み入れたのか定かではない。そもそもここが埼玉県光市だということやを、男は認識...
小説を読もう「父からの手紙 小杉健治」
- 2019/12/07
- 22:32
「父からの手紙 小杉健治」の表現父からの手紙 (光文社文庫)posted with ヨメレバ小杉 健治 光文社 2006-03-14 AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo ebookjapan 書き出し今年も誕生日に手紙が届いた。
二十四歳、おめでとう。美しい女性に成長した君が私にはとても眩しかった。もし何年か振りかで会ったとしたらとうていわからなかったと思う。
早いもので君と別れてから十年になる。よくぞ、このよ...
小説の書き出し「仮面同窓会 雫井脩介」
- 2019/10/24
- 21:02
「仮面同窓会 雫井脩介」の書き出しをここに残しています。 十年近く経った今でも思い出す。
西に傾いた日に照らされてアスファルトが黄色く光っている。
白いウェアに身を包んだテニス部員たちが連なって軽快に走り抜けていく。
その向こうにあるグラウンドでは野球部員たちのかけ声と金属バットの打球音が、空を抜くようにしてリズムよく上がっている。
洋輔ら四人が裸足で正座させられているのは、そんな放課後の運動部の...
小説の書き出しが難しい 田中経一さんのラストレシピ
- 2019/09/10
- 21:23
ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 田中経一華僑(かきょう)の大物ともなると、その葬儀はここまで大袈裟になるのか……。佐々木充は、そんな感想を持ちながら記帳を済ませた。今年は、四月に入ってから雨空の日が続いている。この日も、横浜郊外にある斎場にはしとしとと雨が降り注いでいた。通夜には数千人を数える参列者が押しかけている。供花の名札を見ると、ほぼ半数が中国人や中華レストランからのものだったが、政治家からスポーツ...
小説の書き出しが難しい 「火花 又吉直樹」
- 2019/09/02
- 20:15
小説を書きたいと思ってもなかなか難しい。特に書き出しがうまく決まらないで悩んでしまう。
人気のある小説は引き込まれていくような書き出しで憧れる。
いつか自分もそんな引き込まれるような小説を書けるようになりたいと思い、私が気に入った小説の書き出しをここに残しています。
今回は「火花」著者は、ご存じの又吉直樹さん。
火花 又吉直樹
大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり...
小説の書き出しが難しい 「旅路を死神 伊坂幸太郎」
- 2019/08/30
- 21:21
書き出しがうまく決まらないで悩んでしまう。
人気のある小説は引き込まれていくような書き出しに憧れるが
いつか自分もそんな引き込まれるような小説を書けるようになりたいと思い、私が気に入った小説の書き出しをここに残しています。
死神の精度 伊坂幸太郎 (著)
なだらかな起伏のある国道六号は、車が詰まりはじめていた。片側一車線のため、軽のトラックが一台いると、それだけでてきめんに渋滞となる。前...
13階段(高野和明)の書き出し
- 2019/08/01
- 11:58
死神は、午前九時にやってくる。樹原亮は一度だけ、その足音を聞いたことがある。最初に耳にしたのは、鉄扉を押し開ける重低音だった。その地響きのような空気の震動が止むと、舎房全体の雰囲気が一変していた。地獄への扉が開かれ、身じろぎすらも許されない真の恐怖が流れ込んできたのだ。やがて、静まり返った廊下を、一列縦隊の靴音が、予想を上回る人数とスピードで突き進んできた。止まらないでくれ!ドアを見ることはできな...