読書を趣味に ≫ 小説から学ぶ
中山七里さんのさよならドビュッシーに出てくる名言
- 2022/05/28
- 08:30

中山七里さんのさよならドビュッシーより 難しい言葉で艱難辛苦と言うがな。ただ、苦難はそいつに与えられた試練や。艱難汝を玉にす。乗り越えられた者は強くなるし、乗り越えられなかった者はそこで押し潰されて終わる。「いいや、同じ夢を追うにしても遥と研三ではずいぶん違うぞ。あいつが追っておるのは寝てる夢、お前が追っておるのは起きて見る夢やからな」「どういう意味?」「そいつが現実の中でどれだけ足掻いておるか、...
中山七里さんのさよならドビュッシーの書き出し
- 2022/05/21
- 18:51

中山七里さんのさよならドビュッシーより 銀盤にそっと指を置く。 右足は軽くペダルに乗せる。 深呼吸を一つしてから指を走らせ始める。 低音から始まる序奏。そして和音からしなやかな三度の重音に移った時、早速鬼塚先生の叱責が飛んだ。「はい! そこ、指が転んだ」 言われなくても分かってるわよ、そんなこと あたしは胸の裡で舌打ちする。最初くらい気持ちよく始めさせてくれたっていいじゃない。「指丸めて! ちゃ...
東野圭吾さんのレイクサイドの書き出し
- 2022/05/15
- 10:04

東野圭吾さんのレイクサイドより 汚れた綿のような雲が前方の空に浮かんでいた。雲の隙間には鮮やかな青色が見える。 並木俊介は左手をハンドルから離し、右肩を揉んだ。さらにハンドルを持つ手を替え、左肩を揉む。最後に首を左右に振るとポキポキと音がした。 彼の運転するシーマは、中央自動車道の右側車線を、制限速度よりちょうど二十キロオーバーで走っている。ラジオからはお盆の帰省による渋滞情報が流れていた。例年に...
古内一絵さんのキネマトグラフィカの書き出し
- 2022/05/07
- 09:51

古内一絵さんのキネマトグラフィカより 文庫本から眼を上げると、車窓の向こうに、まだ雪が残る山並みが迫っていた。 北野咲子は、軽く伸びをして窓枠にもたれる。 時間通りの到着になりそうだ。 久々に全員が顔をそろえる同期会に参加するため、咲子は上越新幹線に乗っていた。休日にもかかわらず、昼下がりの自由席はすいていて、車輛の乗客の数はまばらだ。 東京から小一時間、新幹線に乗ってしまえば、群馬県桂田市はさほ...
東野圭吾さんの使命と魂のリミットに出てくる名言
- 2022/05/07
- 08:25

東野圭吾さんの使命と魂のリミットより「ぼんやり生きてちゃだめだぞ。一生懸命勉強して、他人のことを思いやって生きていれば、自ずといろいろなことがわかってくる。人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ。誰もがそういうものを持って生まれてきてるんだ。俺はそう思っているよ」「何だかカッコいいね」「だろ。どうせなら、カッコよく生きていこう」健介はそう言って目を細めた。...
中山七里さんの死にゆく者の祈りに出てきた名言
- 2022/04/28
- 15:24

中山七里さんの死にゆく者の祈りより 驕(おご)り昂(たかぶ)り、上からの指示命令に欠片も疑問を抱こうとしない。そういう姿勢が数々の誤謬を生み出しているのではないか。常に組織を疑い、己の未熟さと向き合うことが必要ではないのか。「長らく家電メーカーの営業を務めていたらしいが、きっとそこそこ成功したんでしょう。小さな世界で成功した人間は世間が狭くなる。どこでも自分のやり方が通用すると増長し、そして陥穽に落ち...
小坂流加さんの余命10年に出てくる名言
- 2022/04/23
- 12:27

小坂流加さんの余命10年より 命が恋しくて、時間がいとおしくてたまらない。 愛する人と別れることが死だと思った。 けれど、いとおしいと思えた自分と別れることもしなんだよね。こんなことならもっと自分を大切にすればよかった。わたしを一番大切にできるのは、わたししかいないんだから。 もっと早く、いろんなことに気付けたらよかったな。 好きだよって、時には誰かに言って欲しい。 それだけで生きている実感が持てる...
中山七里さんの死にゆく者の祈りの書き出し
- 2022/04/22
- 20:32

中山七里さんの死にゆく者の祈りより 教誨室(きょうかいしつ)の中はひどく寒々しかった。 四方の白を基調とした壁には何の飾りもなく、天井の照明が無機質な光を放っている。調度と呼べるものは中央に置かれたテーブルと一対の椅子のみという殺風景さだが、壁の一面に設(しつら)えられた棚にある縦横一メートルほどの仏壇と部屋に立ち込めている香が辛うじて仏間らしさを漂わせている。...
田中経一さんのラストレシピの名言
- 2022/04/21
- 08:32

田中経一さんのラストレシピより「デービッド、君はこれまでお父さんを避けてきたよね。それはお父さんが偉大すぎるためだったと思う。でも、そのお父さんはいつまで生きていると思う? 明日までかもしれない、今日、命を失うかもしれない。生きているうちにできるだけ話すんだ。時間を惜しまず話さなくてはいけない」 ある日、私は直太朗さんに『なぜ、直太朗さんの料理には色々な国の要素が入っているのか?』と尋ねたことがあ...
小坂流加さんの余命10年の書き出し
- 2022/04/14
- 10:22

小坂流加さんの余命10年より ゆらゆらと街は陽炎(かげろう)で揺れている。 林立するビルの窓は灯台のように明滅している。すれ違う電車の残像が光を引いていく。雑踏の先から路地裏へ駆け回る子どもたちはコンサートの上に点滅する光を踏んでいくように走り去る。騒がしい声とすれ違ったバスから降りた乗客は光に刺されると小走りに建物の下にかろうじて伸びていた墨色の影の下に逃げ込む。自動ドアが開くと、焼けた肌を冷風が癒...
田中経一さんのラストレシピの書き出し
- 2022/04/10
- 20:36

田中経一さんのラストレシピより 二〇一四年(平成二十六年)、四月 華僑の大物ともなると、その葬儀はここまで大袈裟になるのか……。 佐々木充は、そんな感想を持ちながら記帳を済ませた。 今年は、四月に入ってから雨空の日が続いている。この日も、横浜郊外にある斎場にはしとしとと雨が降り注いでいた。 通夜には数千人を数える参列者が押しかけている。供花の名札を見ると、ほぼ半数が中国人や中華レストランからのものだっ...
中井由梨子さんの20歳のソウルの書き出し
- 2022/03/31
- 21:18

中井由梨子さんの20歳のソウルより 満員の千葉マリンスタジアム。 浅野大義がヒロアキとともに応援席に向かうと、サングラスをかけた高橋健一先生が「よお」と片手をあげた。 トロンボーンは最前列。大義はその列の端に愛用の「ロナウド」を構えて立った。「大義先輩と吹けるの、嬉しいです」と、隣の後輩が微笑む。大義も、なんだか夢を見ているようだった。 3年前、高校の教室で思い描いた、応援席。トロンボーンは最前列の...
中山七里さんのヒポクラテスの誓いの書き出し
- 2022/03/20
- 10:08

中山七里さんのヒポクラテスの誓いより「あなた、死体はお好き?」 真琴はそう訊かれて返事に窮した。 十一月の薄日が差し込む法医学教室で、挨拶も交わさないうちの第一問がこれだった。しかも目の前に座る質問者は、紅毛碧眼(こうもうへきがん)でありながら日本語が至極流暢ときている。「あ、失礼。自己紹介まだだったわね。ワタシ法医学教室准教授のキャシー・ペンドルトン」「け、研修医の栂野真琴です」 差し出された手を...
瀬尾まいこさんのそして、バトンは渡されたの書き出し
- 2022/03/12
- 12:08

瀬尾まいこさんのそして、バトンは渡された 何を作ろうか。気持ちのいいからりとした秋の朝。早くから意気込んで台所へ向かったものの、献立が浮かばない。 人生の一大事を控えているんだから、ここはかつ丼かな。いや、勝負をするわけでもないのにおかしいか。じゃあ、案外体力がいるだろうから、スタミナをつけるために餃子。だめだ。大事な日ににんにくのにおいを漂わせるわけにはいかない。オムライスにして卵の上にケチャッ...
平野啓一郎さんのある男に出てきた名言
- 2022/03/06
- 16:34

平野啓一郎さんのある男「わたしの人生のモットーは、三勝四敗主義なんです」「何ですか、それ?」「人生は良いことだらけじゃないから、いつも三勝四敗くらいでいいかなって思ってるんです。」「四勝三敗でしょう? 三勝四敗だと負け越してるよ。」 城戸は、単純な言い間違えだろうと訂正したが、美涼は首を振った。「ううん、三勝四敗でいいんです。わたし、こう見えても、ものすごく悲観主義者なんです。 真の悲観主義者は明...